KIBIHA

幾夏のさぶあかうんと

日曜の朝六時に目が覚めると、雨音と一緒に二つの窓から曇天の空の色が入ってきて、ああここはいい部屋だなと思った。こんな朝が人生にあと何回訪れるだろう。十分に眠って元気があって、何も予定がない日曜日の朝。

音楽を流してクッキーをかじりながら、図書館で借りてきた本を流し見した。それから、昨日面接の気晴らしにカバンに入れていたZINEを開いた。大切にしている何かをそっと手渡された気持ちになるような、素敵な文章があった。生活のこと、好きな音楽のこと。顔も知らないその人が、海に向かって石を投げながら語っているのを心地よく横で聞いているようだった。うらやましくなって、こんな文章が書きたいと思った。筆者自身について書かれた文章を読んでいると、書き手の自意識が纏わりついてきて息苦しくなることが少なくないけれど、ふたつの文章は自意識の持ち方がいかにも清々しいというか、行間に乾いた風が吹き抜けているような気がした。懐にある何かを真摯に言葉に立ち上げていこうとするさまが伝わってきた。少なくとも自分は、自分のことを第三者目線で捉えてツッコミを入れてみたり、「なんてね」なんて言っちゃったりするときは、たぶん自分というものを文章に十全に込めてやるぞという気持ちではなくて、どこかで余力をほのめかしている。でもやっぱり、文章に込められたものしか心には伝わらない。そのことがよくわかった。

いま、自分もはじめてまとまった「文章」を書いている。掌篇になるのか随筆になるのかもよくわからないまま手探りで。最近はちょっと行き詰まっていたけど、今なら、見失わずに続きにとりかかれそうな気がする。