KIBIHA

幾夏のさぶあかうんと

尻が嫌いだ

基本的に悪口は言わないようにしているが、どうしても許せないものがある。これは言ったところでそれほど誰かを傷つけたりしないような気がするので、言わせて下さい。
尻だ。いや、尻と口に出すのさえはばかられる。尻あらため臀部だ。
何をそんなに深刻な顔をして臀部を批判するのかと自分でも不思議に思うが、このうらみ方は妄執にも近い。でも仕方がないと思う。だって実際片時もこの脂肪片は離れてくれることがなく、それとなく存在を示し続けてくるからだ。椅子に座るときやしゃがんだときなどに、仕事はちゃんとしてますよ、とビジュアル的にも実感的にも「それとなく」アピールしてくる、この妙な「それとなさ」が腹が立つ原因のひとつだ。筋肉や脳はそのようなアピールをすることなく黙って自分の任務をこなす。ときどき不調になった時だけ音を上げてしんどさを訴えてくる。なんとも健気だ。それでこそ調和を保った身体だというものだろう。
そして、形状や材質のまぬけさ、これがネックだ。ただでさえ欠陥の多い人間に、さらにウィークポイントを増やしてくるところが腹立たしい。せっかく筋肉を鍛えても、なんとなくここをつかんだときに、ああ…まだこいつがいたかと脱力してしまう。同じことは太ももにも言えるけど、太ももは普段シルエットとしてそれほど主張してこない。でも臀部は違う。ぷくっとしている。まっすぐの線をかき乱す唐突なふくらみ、これさえなければもっとフラットでぺらぺらな身体になるのに。ここには大いに自分の理想のプロポーションが影響しているけど…。
臀部についてのいちゃもんはまだまだあるけど、立場を守ったまま言えることは意外に少なかった。

ただ臀部が、機能的に不可欠だと言うことは頭ではわかっている。日々これのおかげで椅子に座っても軽くこけても、骨を折ったり体を痛めたりすることなく穏やかに過ごしていられるのだと。でも嫌なのだ。「生理的に〜」という表現は今までずっとしっくりきていなかったが、まさにそれなのかもしれない。それでいて、臀部という体の一部についてだけでこんなにも語れてしまうのだ。というより、他のパーツについても語れるような気がしてきた。「がんばり屋さんでけなげな心臓」みたいなテーマの文章、その気になれば書けたりする気もする。